2021年10月、ピアニストが目指す世界最高峰の舞台の一つである「ショパン国際ピアノコンクール」において第4位に入賞された小林愛実さんにインタビューしました。
演奏や山口県への思い等、さまざまなことをお話いただきました!
―小林愛実さんのプロフィール―
山口県出身。7歳でオーケストラと共演、9歳で国際デビューを果たした。数多くの国に招かれ、スピヴァコフ指揮モスクワ・ヴィルトゥオーゾ、ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラなど多数のオーケストラと共演。2021年10月にショパン国際ピアノコンクール第4位入賞、2021年12月には山口県文化特別褒賞を受賞し、今後ますますの活躍が期待される。
現在
- Q:ショパン国際ピアノコンクールを、ライブ配信で見守った県民も多かったと思います。改めて振り返って、今どんな思いをお持ちですか?
- A:コンクールが終わり約2カ月経つのですが、今では遠い昔のようで懐かしく感じています。ありがたいことにコンクール後にたくさんの取材を受け、このように多くの方に知っていただく機会をいただけたので、出場して良かったと思っています。
- Q:セミファイナル(3次予選)の「24のプレリュード」演奏後のインタビューで涙を浮かべておられた姿が印象的でした。1度目の挑戦と比べ、どんな変化を実感しておられますか?
- A:最初に出場した時は20歳で、その後の6年の間に様々な経験をしていく中で、自分の「理想の音楽」が確かなものになってきました。今回の出場では、自分の意志を貫き、自分の理想の音楽に最後まで寄り添おうと思って演奏しました。特に3次予選は本当に楽しくて、あんなに楽しく弾ける舞台は、これからの音楽家人生の中でもなかなか無いと思います。
- Q:今のお話の中で、「理想の音楽」という言葉がありましたが、幼少期や6年前に比べ、小林さんの理想とする音楽はどのように変わられましたか?
- A:以前は華やかなパフォーマンスもしていましたが、今はそういったことにはあまり関心がなく、作曲家が曲に込めた思いを感じとり、自分がどう表現したいのかを自分自身に問いかけ、楽しんで弾くことを大切にするようになりました。
過去
- Q:幼少期に「山口県メダル栄光」を3度も受賞するなど、私たちには「神童」の印象が強い小林さんですが、一つのことを長く続ける上で何か苦労されたり、悩まれたりしたことはありますか?
- A:もちろん苦労や悩みはたくさんありますし、ピアノをやめようと思ったこともあります。好きなことを仕事にすることは、ピアノに限らずどの職業でも大変だと思います。しかし、私の場合はピアノを演奏することが好きで、その瞬間に味わえる喜びが大きいからこそ続けてこられたのだと思います。
- Q:H25(2013)から、アメリカ・フィラデルフィアのカーティス音楽院でマンチェ・リュウ教授に師事しておられますが、教授や仲間との出会いは、小林さんにどんな影響を与えましたか?
- A:カーティス音楽院は小さな学校ですが、生徒は本当に優秀な音楽家ばかりで、特に仲のいい子たちはポーランドにも応援に来てくれました。互いに支えあい、同じ夢に向かって頑張っている仲間が周囲にいることは、励みになっています。
そして、やはり先生の影響は大きいです。弾き方をはじめ、音の出し方、表現の仕方、音楽の構成の仕方など、日本では習わなかったことをたくさん教授してくださいました。コンクール前にポーランドで練習しているときも、リモートでレッスンをしてくださり、「最終的にはショパンの音楽を素直に感じて、楽しんで演奏して、それをお客様やその空間に届ければいいよ」と仰ってくださいました。その言葉は、今の自分の音楽の根幹になっていると思います。
山口県
- Q:小林さんが全国ニュースなどで話題になるとき、「宇部市出身」と紹介されるのを毎回とても嬉しく感じています。このたび、「山口県文化特別褒賞」を受賞され、また「山口ふるさと大使」にも就任されましたが、海外で活動される中で、山口県とのつながりを感じたり、山口県を思い出したりすることはありますか?
- A:海外にいると山口県との繋がりを感じることはなかなか無いのですが、幼少期に自然豊かな山口県で過ごしたことは、今の自分の音楽のインスピレーションに関わっていると思います。また、私の周りの海外の方は日本のことが好きな方が多いです。海外でも日本食はよく食べますし、日本に来たことがある方は、日本は人々がみんな親切で、綺麗で生活しやすいと褒めてくれるので、日本人としてはとても誇らしいです。
未来
- Q:ピアニストとしての今後の目標や抱負をお聞かせください。
- A:来年からは、アメリカからフランスに拠点を移し、新しい学校に留学して新しい先生に師事することになっています。私はヨーロッパに住むのは初めてですし、以前から習いたかった先生に教えていただけるのでとても楽しみです。環境の変化や、新しい人たちとの出会いにより、自分の音楽がどう変化し、自分自身がどんな音楽家になるのかを、自分自身で見届けるために音楽家であり続けたいと思います。既に2回ほどレッスンは受けているのですが、フランスに行くまでに少しでもフランス語を話せるようにしておきたいと思います。
- Q:最後に、山口県の若いアーティストに向けてアドバイスと応援のメッセージをお願いします。
- A:無理に夢を持つ必要はないと思います。私も最初から夢があったわけではなく、好きなことを続けていたらそれが夢になり、気が付けば職業になっていました。やはり自分が好きなことをやるのが一番です。しかし、そのためには努力しなければいけない時もたくさんあります。ただし、その努力の先にあるのは結果ではなく、その努力の過程が大切であり、その過程がその人の人生を築き上げるのだと思います。ですから、もし好きなことや頑張りたいことがあれば、まずは怖がらずに挑戦し、自分を信じて前に突き進んで行ってほしいと思います。