VOL.4 佐渡 裕さん

VOL.4 佐渡 裕さん

シンフォニア岩国で開催された演奏会(※1)の際に、指揮者の佐渡裕さんに、インタビューしました。
岩国での音楽活動のこと、今回の演奏会のことなどのお話を通して、そこから広がる壮大な音楽の世界について、シンフォニア岩国の若林館長と一緒にお伺いしました!

画像:佐渡 裕さん近影

- 佐渡裕さんのプロフィール -

京都市立芸術大学卒業。故レナード・バーンスタイン、小澤征爾(おざわせいじ)らに師事。1989年、新進指揮者の登竜門として権威あるブザンソン国際指揮者コンクールで優勝し、国際的な注目を集める。現在、オーストリアでトーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督を務めている。国内では兵庫県立芸術文化センター芸術監督、シエナ・ウインド・オーケストラ首席指揮者を務める。2015年9月まで「題名のない音楽会」(テレビ朝日系列)の司会者を7年半務めたことでも知られている。

シンフォニア岩国との関わり

Q:以前、シンフォニア岩国で活動をされていたとお聞きしました。
A:【佐渡さん】2001年からの3年間、シエナ・ウインド・オーケストラ(※2)による演奏会と、中高生との共演企画でした。単に一緒に演奏するだけでなく、シエナの演奏会の前に中高生がシエナの団員による楽器クリニックを受講することで、演奏会をただ聴くだけでなく主体的に盛り上げてくれるようになります。もうひとつは、由宇青少年自然の家で、1泊2日で小学校5年生の子どもたちと、キャンプを行ったことです。みんなで曲をつくったり、ホースとじょうろでトランペット作ったりして、その楽器で『聖者の行進』(※3)を練習し、シエナと共演しました。カレーを作ったり、キャンプファイヤーをしたりもしましたね。
A:【若林さん】集大成は演奏会ですが、佐渡さんがいらっしゃる間に、子どもをキャンプへ連れて行ったり、佐渡さんに小学校で授業してもらったり、いろんな活動をしていただきました。現在、その流れを引き継いで矢澤(やざわ)先生(※4)に行っていただいているのが、「ミュージッキング(※5)」です。 今年は3月30日に成果発表コンサートが開催されます。

H30年度ミュージッキングHP:
http://www.sinfonia-iwakuni.com/calendar/2019/03/035362.html

A:【佐渡さん】矢澤さんは当時キャンプを手伝ってくれていたんですが、こうして、“思い”が引き継がれているのは嬉しいですね。
A:【若林さん】うちの職員に、当時のクリニックを受けて音楽大学に行って、また帰ってきたという者が います。ここに、佐渡さんからの「(ミュージックキャンプ(※6)を)終えて」という手紙があるんです。あとから子どもたちがこの手紙を見て、励まされたり、われわれが思った以上にこの活動からいろんなものを子どもたちが感じ取っているのが分かりますね。

当時の手紙を振り返る佐渡さん(左)と若林さん(右)。

若い芸術家へのメッセージ

Q:様々な分野で子どもたちや、若い芸術家を目指す方々が頑張っていらっしゃると思います。その方々へメッセージを一言お願いします。
A:【佐渡さん】僕はいろんな人との縁に導かれて、ここまで歩んできました。今振り返ると、たしかに自分自身で努力し、道を選んできたと思います。でも同時に、20代、30代前半の頃は誰でも、自分がこれで飯食っていけるというのが見つかったとしても、一生かけてやれるものかっていう迷いが起こるものですよね。そこで悶々とすることは悪いことじゃないし、大いに悩んだらいいけれど、やっぱり人との縁を大事にすることで道が開くこともあると思います。 とても尊敬しているゴルフの先生が「才能はすごく重要だ。努力もしなきゃいけない。そして運がやっぱり必要だ。」と仰っています。そして、これらは足し算だと。それに加えて、掛け算になるものがあるって言うんです。それは“感謝”の気持ち。例えばゴルフの試合で「なんでこんな大事な日に雨が降っているんだ」って思う。そう思った時点でこの人は才能も努力もせっかく持った運も×0.7になってしまう。ピンチの時こそ「自分が今そこにいることがありがたい」と思えることが大切。この掛け算は、人生の「奇跡の方程式」です。仕事をして、給料をもらって、なおかつ大好きなことに関わっていくわけだから、忘れがちな“感謝の気持ち”が大事だと思います。

山口県の印象

Q:山口県にはどのような印象がありますか。
A:【佐渡さん】山口県の印象っていうと大半がここシンフォニアです(笑)。3年間、毎年1週間滞在すれば知り合いもできます。駅前のホテルに泊まって、たまには散髪をしたり、夜な夜ないきつけの居酒屋に行ったり。山口県の方はみんな人懐っこいですね。旅をすることが多いから、些細なことでもその土地柄を感じるんです。
A:【若林さん】光栄なことがありまして、それは佐渡さんの「忘れられない演奏」の1つがシンフォニア岩国であったそうなんです。
A:【佐渡さん】シエナとの演奏会のアンコールのことですね。ホルンとサックスのメンバーがオーケストラを辞めることになって。本当にすごい辛くてね。2人が好きだった『エルザの大聖堂への行進』(※7)という曲を岩国で特別に演奏したのですが、もう涙で吹けなくなるぐらい感動的な演奏でした。

アーティストの活動、役割

A:【佐渡さん】僕がミュージックキャンプを通じて目指したのは、地元の小学生、中学生、高校生たちが、活動によって達成感を感じたり、感動があったり、音楽がもっともっと身近な存在になってくれること。 東日本大震災(※8)後は、兵庫で芸術監督を務めている子供のオーケストラ“スーパーキッズ・オーケストラ”と一緒に東北の沿岸部を毎年訪ねています。釜石市(岩手県)のある女性から震災直後に手紙をいただいたのがきっかけです。その方は津波で流されたけれど奇跡的に助かったのですが、経営している旅館や自宅は大きな損傷を受けました。その旅館のすぐ前は海で、津波にも負けなかった小さな松林があるのですが、そこから海に向かって献奏をする。そこから、大槌町(岩手県)、陸前高田市(岩手県)、宮古市(岩手県)、仙台市(宮城県)など、沿岸部を回って演奏活動をしています。東北の復興にはまだまだ時間がかかるでしょう。僕は兵庫県立芸術文化センターの芸術監督を務めていますが、兵庫は阪神淡路大震災の後、全国の人に助けてもらって復興した町。ですから、その恩返しの意味と、「海に向かって、津波で亡くなったたくさんの方々に向けて演奏したい」という思いのもとに、こういった活動をしています。

今回の演奏会について

Q:「大阪センチュリー交響楽団」の名称の時代に首席客演指揮者を務められた「日本センチュリー交響楽団」、そして2年前に一緒にツアーを行われた反田恭平さんとともに行われた、今回のツアーについて教えてください。
A:【佐渡さん】今回のツアーは毎公演で完全燃焼しています。連日本番がありますが、反田さんの素晴らしいピアノと、熱気に満ちたオーケストラと一緒に、「昨日よりももっと」と毎日進化した演奏を届けられていると思います。 僕がブザンソンのコンクールを優勝したのが1989年で、センチュリーの首席客演指揮者に就任したのが1994年。駆け出しの指揮者だった僕にとっては、日本で指揮が、しかも定期的にできる場ができたわけで、正直めちゃくちゃ嬉しかったです。関西出身の僕が、関西のオーケストラで。僕もオーケストラも若くて、初めて指揮する曲がいっぱいあって。それはもう、がむしゃらに取り組みました。今も本当に大好きなオーケストラだし、あの頃一緒にやっていたことが僕のベースになっています。交響曲『新世界より』は、当時何回も何回も練習した、僕とセンチュリーにとって大事な楽曲です。今回この曲を久しぶりにセンチュリーと一緒に練って、このツアーで演奏することができたのは、すごく感慨深いと同時に、嬉しい思いでいっぱいです。

  1. 演奏会
    「佐渡裕指揮日本センチュリー交響楽団with反田恭平」。ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調Op.30とドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調Op.95「新世界より」が演奏される。 (日程:2019年2月19日大阪公演、20日佐賀公演、21日大分公演、22日熊本公演、23日鹿児島公演、24日鳥取公演、25日岐阜公演、27日山口公演【シンフォニア岩国】、28日岡山公演、3月1日愛媛公演、2日高知公演)
  2. シエナ・ウインド・オーケストラ
    佐渡氏が首席指揮者を務めるオーケストラ。
  3. 『聖者の行進』
    アメリカの黒人霊歌。ディキシーランド・ジャズ。
  4. 矢澤先生
    矢澤(やざわ)定明(さだあき)氏。指揮者。シンフォニア岩国では、「みんなでミュージッキング」の音楽監督・指揮を務める。
  5. ミュージッキング
    「みんなでミュージッキング」。シンフォニア岩国で開催される、吹奏楽クリニック。矢澤定明氏が音楽監督・指揮を務める。今年度も、シンフォニア岩国で3月30日「シンフォニアフェスタ」において成果発表コンサートが開催される。 http://www.sinfonia-iwakuni.com/calendar/2019/03/035362.html
  6. ミュージックキャンプ
    「岩国ミュージック・キャンプ」。本文で述べた、シエナ・ウインド・オーケストラと子どもたちによる楽器クリニック・演奏会等活動の総称。
  7. 『エルザの大聖堂への行進』
    リヒヤルト・ワーグナーのオペラ「ローエングリン」の中の曲。
  8. 東日本大震災
    2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害。釜石市、大槌町、陸前高田市、宮古市、仙台市も震災で大きな被害を受けた。

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